勘三郎さん、ありがとう

数ヶ月前に大阪の橋下市長が文楽協会に対する補助金を削減すると発言していたころ。
私は何となく、数年前に見た「大阪平成中村座」のことを思い出していた。



文楽協会も学校を訪問するなどいろいろな活動はしているだろうが、平成中村座は桁違いのサービス精神を見せた興行だったと思う。
たった数ヶ月の公演のために芝居小屋を建てるとは。しかも大阪城公園という最高のロケーションだ。
芝居小屋の外観も内装も素敵で、お大尽席を作ったり芝居の最後に舞台後ろの壁が開いて大阪城が見えたりと隅々まで楽しい趣向が凝らされていた。

おまけに私は「桜席」という幕の内側の2階席で、セットの転換や幕が下りてはけていく役者さんの様子などをじっくり堪能できて大興奮の一日だった。



勘三郎さんはじめとする中村屋の皆さんがあれを実現するためには、どれだけのパワーが必要だったことだろうか。
その原動力は、客に対するサービス精神か、歌舞伎の発展を願ってのことか。
もしくは自分自身に対する挑戦なのか…。
あの芝居小屋には中村屋の方々の気合いのようなものが満ちあふれていた気がする。



そうやって大阪平成中村座を思い出し、勘三郎さんの容態はいかがなのかと思っていたのだが、今月初旬に訃報を聞いたときは驚きショックだった。
まだまだお若いのに。
あの勘三郎さんなら、病状が重くてもきっといつか復帰してまた関西に来てくれるだろうとなぜか思い込んでいたので、それが叶わなくなったのが残念でならない。

しばらくして自然と沸き上がってきたのは「勘三郎さんにお礼が言いたいなあ」という気持ちだった。
勘三郎さんの芝居は大阪平成中村座でしか見たことがなかったのだが、そのたった一度がとても印象強く、勘三郎さんの豊かな表情や勘太郎さん(当時)の迫真の演技など今でも心に残っている。
あのような楽しい思いをさせてもらってありがとう、と素直に思ったのだ。



でももう本人に伝える術はない。
そこで、京都南座で公演中の「吉例顔見世興行 六代目中村勘九郎襲名披露」を見に行くことにした。

ここしばらく歌舞伎を見に行く気になっておらず、そのうえ引越しが一週間後に控えているので家の中がぐちゃぐちゃなのだが、そんなことよりも「これは見に行かねば」という気持ちが勝った。
歌舞伎に限らず、歌手でも俳優でも舞台に立つ仕事の人を応援する一番の方法は舞台を見に行くことだと思うので。

行くと決めたのがギリギリの日程だったのでいつもの数倍お高い席しか空きがなくて一晩悩んだが、まさに清水の舞台から飛び降りる気持ちで人生初の一等席を購入し(特等席には一生座る機会が無さそう…)先週末見に行ってきた。
自宅内が着物を広げられる状況ではないので洋服で、それでもいつもよりは少し気を使った服装で出掛けたが、さすが顔見世。着物姿の方がとても多くて羨ましかった。

襲名披露ということで出演者がとても豪華な面々。
(詳しくは歌舞伎美人公式サイトを)
仁左衛門さん、橋之助さんの男前っぷりにほれぼれしたり、私の好きな翫雀さんが以前見た「双蝶々曲輪日記」の放駒長吉に続く関取役で、薄緑の大きな格子柄の着物に博多献上の赤い帯を後ろで一文字に締めている姿がなんとも可愛らしく、芝居の筋とは別のところでツボにはまってしまった。



さて肝心の、新勘九郎さん。最初の登場は襲名披露の口上だった。
亡くなったばかりの勘三郎さんは、勘九郎さん兄弟にとっては父であり師匠であり、中村屋の屋台骨であり一番の看板役者でもあったと思う。それを一度に失ってしまったショックは他人の計り知るところではないだろうが、決して気負いすぎることなく、しかし体中から凛とした決意が漲っている、いい口上だった。
勘九郎の名跡にはずっしり重い責任と期待がついてくるだろうが、焦らずゆっくりと頑張っていただきたいと思う。

口上以外では、新歌舞伎十八番の内・船弁慶のみの出演。
勘九郎さんが前半は静御前、後半は波間から現れる平知盛の怨霊を見事に演じ分けていらした。
前半は、静御前が義経の前で別れの舞を披露。顔を能面のように白く塗り上げてあり、確か衣装も能のものを使用しているということで、まさに能の一場面を見ているようだった。
その後に義経と弁慶の前に現れる平知盛の怨霊は、一転して恐ろしいほどの迫力。しかし、猛々しさの中にどこか人間ではなく霊なのだと感じさせるところが不思議だ。
弁慶の数珠の音を聞き徐々に弱っていき、弱りながらも力と怨念を振り絞って何度も向かってくる様はものすごい迫力だった。
特に最後の、花道を隅から隅まで使って幾度も襲いかかっては戻されるを繰り返すシーンは圧巻。狭い花道を、後ろを振り返ること無く前向きのままものすごい勢いで下がり、また全速力で舞台まで突っ込んでいくのだ。花道の下で見ていた方々はきっと勘九郎さんが落ちては来ないかとヒヤヒヤしていたことだろう。私もあまりの迫力に口が半開きになっていたほどだった。



勘三郎さんにお礼を言うために見に来た襲名披露公演だったが、またいいものを見せていただいたな〜と嬉しい気持ちで帰途についた。
勘九郎さんがいつか勘三郎を襲名される時、もしまだ私が元気にしていたら是非見に行きたい。
…って、何十年先の話だろうか?
そのころ、まだ私は着物を着ているかなあ。



さて、久々の歌舞伎を楽しんだ後はいよいよ引越し準備の大詰めだ。
びっくりするほどたくさんのものを捨てているのに、荷物が多すぎて引越し業者から貰った段ボールが足りなくなるかも…
今日もこれからまだまだ捨てていくぞ!
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Commented by 神奈川絵美 at 2012-12-17 23:11 x
こんにちは! 年始を新しいお住まいで迎えるのですね。引っ越しはたいへんかと思いますが、ひとふんばりですね。
襲名披露公演、ご覧になれてよかったですね。何よりの供養というか、御礼を表す術と思います。知盛、私は能と歌舞伎と確か両方観た記憶がありますが、能の方で、いかりとともに沈んでいくさまが迫力大でした。また歌舞伎の方も観てみたいなあ。
Commented by Medalog at 2012-12-19 08:41
神奈川絵美さんへ
ありがとうございます。引越し準備もいよいよ大詰めです。
何かと作業が多いですが、大掃除をしなくて済むと思えば気が楽かもしれません。

今回の襲名披露は、最初は見に行くつもりはなかったんです。勘三郎さんが出ないので。
勘三郎さんが復帰なさって親子3人で関西に来た時には見に行こう、なんて思っていたのですがそうはいかず…。せめてもの供養の気持ちで見に行きました。
能だと、最後の知盛の迫力ある部分がどう表現されるのか興味があります!
私は能を見るとつい船を漕いでしまいそうになるのですが、舟弁慶ならストーリーがわかっていて集中してみれそうなので一度見てみたいです。
by Medalog | 2012-12-17 14:05 | 生活 | Comments(2)

大阪在住主婦の、のんびりメダカ飼育と着物を楽しむ日記です      


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